一生自分の歯で食べるために!

歯が少なくなってきた方は食べる時の噛む力をコントロールしましょう!

その人の現在の歯の状態によっては、咀嚼力(食べるときの噛む力)が強いために、その歯が噛む力に耐えきれずダメになることがあるということが最近の研究(北海道札幌市開業 池田雅彦先生らによる研究)で分かってきました。しかし、この研究結果は2017年現在のところ歯科界全体に浸透しているわけではなく、研究熱心な一部の歯科医が取り組んでいる分野と言えます。そのため、残念なことにそのことを指摘してくれる歯科医がほとんどいないのが現状です。当院では、この分野にも取り組んで弱っている歯を抜かずに長持ちさせる指導を行っています。それでは、詳しく説明していきましょう。

若い頃は、ほとんどの方が無意識に強く噛んでいても何も問題は起こりません。ところが、加齢とともに歯も骨も弱くなってくるために今まで無意識に噛んでいた噛む力では歯が耐え切れず割れてしまったり歯周病が進行したりして歯を失うことが多くなります。

また、歯がだんだん少なくなってきて歯が弱くなってきている方は、今まで無意識に食べていた噛む力の強さを毎食ごとに自分でコントロールしないと徐々に歯を失う可能性が高くなる場合もあります。

患者さんに、このことを説明しますと多くの場合「私は硬いものが好きだから、軟らかいものを食べるようにします」という答えが返ってきます。自分は硬いものが好きだから歯が悪くなりやすいのだろうと考えるのは当然なことだと思います。しかし、食べる時に強く噛む人と弱く噛む人の食事内容と食事量を調べた研究によれば、ほとんど差がないということが分かっています。つまり、食べる時の噛む力は、食物の種類(軟らかい、硬い、噛み切りづらいなど)で決まるわけではなく、その人の噛み方そのものなのです。強く噛む人は軟らかいものを食べても強く噛んでいるのです。たとえば、葉物野菜などは軟らかいですが噛みしめないと食べられません。バナナ、豆腐などもしっかり噛んで食べている方もいます。また、噛むことはストレス発散効果にも関係していますが、早食いの人も強く噛んでいる可能性が高いという研究もあります。ところで、ここで話題にしている食べる時の噛む力の強さとは咀嚼時のどの瞬間の力を表しているのでしょうか?それは、食べ物を噛んだ瞬間の力ではなく、食べ物を噛みきって上下の歯が接触したとき発揮される噛みしめる力のことです。その力が、強いか弱いかということなのです。

噛む力(咀嚼力)で歯を割ってしまった方は、噛む力が強く、今後も連鎖的に歯を割って失っていく可能性がある患者さんです。噛む力が強いかどうかを調べるには咀嚼時に使用する特殊なマウスピースを使用して調べる方法があります。

では、噛む力を弱くするには、具体的にどうすればよいのでしょうか?それは、まず初めに食べ物を噛むときに一口ごとに最小の噛み切る強さを意識しながら食べることを習慣づけるようにします。噛み切りづらい食べ物は、いっぺんに噛み切ろうとせず噛む回数を多くして一回の噛む力を最小にします。噛む回数の目安は一口ごとに最小の力で30回以上噛んでから自然に飲み込んでいくようにします。特に咀嚼力が強い人の中には、上下の歯が接触したら(噛みしめずに)すぐ離す、あるいは歯をわずかに接触させないぐらいで食べる練習をしなければならない患者さんもいます。そのような方は最小の噛む力で50回噛みを実行することでどうにか歯を助けられたという例もあります。

さて、今まで無意識に食べていたため自分の食事している時の噛む力が強いかどうか分からない方が多いと思います。それを調べるいい方法があります。両手の人差し指、中指、薬指の3本の指先で耳の穴の前方斜め下あたりを触りながら普段の噛む力で噛んでみてください。すると、噛む筋肉が縮んで腕の力こぶのように真横に盛り上がるのを感じ取れると思います。その筋肉の盛り上がりが大きいほど強い力で噛んでいるということです。噛む力を弱くするために食べ物を口に入れたら両手の指で噛む筋肉を触り、力こぶが出ない程度の噛む力で食べてみてください。すると、噛む力が弱いため自然と噛む回数は増えていきます。出来れば30回以上を目標にして食べる習慣をつけてください。そうすれば、弱っている歯も長期にわたり長持ちさせることができます。

もちろん、咀嚼力をコントロールしなければならない患者さんは、歯を何本も割って抜歯した患者さん、歯が少なくなってきてこれ以上歯を失いたくない患者さんです。噛んで歯を割った経験がなく、歯の減り(咀嚼力と歯ぎしりで歯がこすれて減っている状態)が少なく、歯周病もほとんどない患者さんは、いままで通りの食べ方で問題ありません。